好きになれとは言ってない
いつもより遅れて自分のデスクに着いた航だが、まあ、もともとが早く着き過ぎているだけなので、今日の時間でも、特に遅刻でもない。
携帯をデスクの上に置いたあと、ふと、画面を見てみる。
不在着信で遥の名前が出ていた。
『ああ、いえ。
今朝、電車に乗ってらっしゃらなかったので、どうしたのかな、と思いまして』
と自分を見上げた遥の顔を思い出し、また、遥からの着信履歴を眺める。
「なに、にやにやしてんですか……、課長」
と信じられないものでも見るかのように、前の席の例の部下が訊いてくる。
いや、にやにやなどしていない、と思いながら、慌てて、携帯をしまった。
携帯に着信があっただけで、にやけるとか、不気味だろうがと思いながら、頭の中に居る遥を隅に追いやった。
トナカイの着ぐるみを着た遥が、あーれー、と隅に押し流されていく姿を妄想してしまい、笑いそうになる。
……どうやら、遥の妄想癖が移ったようだ、とちらと給湯室を見ると、まだ居た遥たちが、ちょうど揉めながら総務に戻るところだっだ。
仕事しろ……。