泥棒じゃありません!


返す言葉がない。自分でも痛いほど、今それを実感している。
部屋には、ただ無機質な静けさだけが漂っている。どうにも居た堪れなくて言葉を発しようとしてはみるものの、相変わらずなにも言葉が浮かんでこない。

蓮見さんは怒っているだろうか。いや、怒っているに決まっている。
……でも、これも甘い考えだけれど、元部下のよしみで許してくれるなんてことはないだろうか。


「……さて」

大きくため息をついたあと、蓮見さんが口を開いた。

「理由は聞いたが、あとはどうするか、だな」

項垂れていた頭を上げ、縋るように蓮見さんを見た。
彼は頬杖をついた格好で睨むように私を見ている。

「盗られたものはなくとも、不法侵入には変わりないし」

「……私を、警察に突き出すんですか」

恐る恐るそれを口に出してみると、今さらなにかに気づいたように、心臓が跳ねた。

「突き出されてもおかしくないことをしたよな?」

「…………はい」

「この家の住人が俺じゃなかったら、もうすでに問答無用で警察に突き出されていると思うけど」

私は、自分のしたことがどんなことか、本当にわかっていたんだろうか。
罪を犯す、ということがどういうことなのかも。

「俺に警察に突き出されたら、お前は会社にいられなくなるかもな」

さっき蓮見さんに言われた『事の重大さ』をさらりと突きつけられる。突きつけられて背筋がぞくりとした。室内はそれほど寒くないのに、体がガタガタと震えだしそうな感覚を覚える。

「住居侵入罪は懲役何年だったかなぁ」

その言い方だけを聞いていると、蓮見さんがこの状況を茶化して楽しんでいるように思えてしまうけれど、けっして彼の目は笑っていない。

元部下のよしみで、なんて、本当に甘すぎる考えだった。間違ったことをした人間には、たとえそれが知り合いであってもそれなりの対処をするのが当然だ。

……自業自得。
ゲームのように、都合よく分岐点には戻れない。


これで、バッドエンド――。

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