不安の滓

慣用句

『目は口ほどに物を言う』

 いわゆる慣用句で、実際に目は口じゃないのだから何も言わない。
 ただ、おどおどしているような、何か後ろめたいものを持っている人の目は泳いでいるし、怒っている人の目は釣りあがったり血走ったり、退屈している人の目は何も無い宙を見ていたりする。
 そういう意味では目はその人の感情を映し出していて、そういった意味ではやはり「目は口ほどに物を言う」のだと理解している。

 他にも「口が重い」とか「口が軽い」とか。
 あるいは「手が早い」や「足が重い」みたいな、実際にそういう状態にはなっていなくても状態を類推したような言葉で言い換える慣用句は沢山ある。

 しかし、私はいきなり慣用句が慣用句でなくなってしまった。
 突拍子も無さすぎて、何を言っているのか理解してもらえないであろうことは重々承知している。
 だが、そうとしか言えない状況に私は陥ってしまったのだ。

 私は、慣用句がそのまま目に見えるようになってしまった。
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