アフタヌーンの秘薬
「どんな男も梨香に近づかないってことだよ」
笑顔から一転して聡次郎さんは拗ねたような顔をした。
「俺の婚約者だって認知させとかないと男性社員が言い寄ってくるだろう」
「そんなわけないのに……」
「さっき駐車場で営業のやつと話してただろ。ああいうのを遠ざけるためだよ」
驚きの理由に開いた口が塞がらない。
「聡次郎さん、あの程度は職場の方とする普通の会話なの。遠ざけられても困るんだって」
「いや、梨香が気づいていないだけだ。あいつは下心がある」
理解不能な聡次郎さんの言動に呆れてしまう。専務の婚約者だとあんな風に公表されたら、みんな私と距離を置いてしまうに決まっている。仕事がやりにくいではないか。
「まったく……」
恋人になっても振り回されてばかりだ。この人がこんなにも嫉妬深いなんて本当に意外だ。
「怒ってる?」
聡次郎さんが私の顔を不安そうに覗き込む。
「はい」
はっきり答えると聡次郎さんは1歩私に近づき両腕で抱き締められた。
「聡次郎さん?」
「梨香を他の男の目に触れさせたくないんだ。梨香にも他の男を見てほしくない」
耳元で切ない声で訴えられて動けなくなった。抱き締められた腕以上に言葉が私を締めつける。
「何言ってるの……」
笑ってそう言ったけれど、聡次郎さんの独占欲が嬉しいと思ってしまう私も重症だ。