アフタヌーンの秘薬

「今誰か来たらどうするんですか」

「見せつけてやる」

見せつけられた方のことなど考えない強引さも、今はもう慣れきってしまった。聡次郎さん以外の男の人なんて眼中にないというのに。

「バカなこと言ってないで仕事に戻りますよ」

聡次郎さんの腕の中から抜けようとすると、さらに強く抱き締められた。

「好きだよ梨香」

そう囁くと聡次郎さんの唇が額から頬に触れ、私の唇と重なった。
こんな幸せな時間が永遠に続けばいいと願いながら、聡次郎さんの貪るようなキスを受け入れた。



◇◇◇◇◇



オフィス街である古明橋でも蝉の鳴き声が聞こえるほどに暑い季節になった。
お店では温かい濃いめの龍清軒を淹れると、ポットに氷を入れ、そこに注いで冷茶として提供するようになった。ペットボトルの緑茶よりも色が鮮やかで深いコクを感じるとお客様にも好評だ。
今日のお昼は聡次郎さんに冷たいお茶を淹れてあげようか。

恋人同士になった今でも、予定が合えばお昼を一緒に食べていた。相変わらず私の淹れたお茶を「おいしい」と言ってくれたことはないけれど、それが逆にやる気になってお茶の勉強への活力になっていた。いつか聡次郎さんがおいしいと言ってくれるようなお茶を淹れてあげたい。





開店してから間もなくしてお店に若い女性が来店してきた。

「いらっしゃいませ」

お辞儀をした顔を上げ女性を見ると、この店には不釣合いなほど若い女性だった。年は私とそんなに変わらないだろうけれど社会人には見えない。もしかしたらまだ学生ということもありえる。そしてこの女性は驚くほど顔が整っていた。

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