アフタヌーンの秘薬

けれど奥様は全力で私の存在を龍峯から遠ざけたいと思っている。ここに住むのなら家族全員に祝福してもらいたい。

「退職が近づいてから愛華さんをここに呼ぶなんて、奥様の望み通りだね……」

私が退職すれば聡次郎さんの望まない相手との結婚もやめてくれると言ったのに、愛華さんと無理矢理くっつけようとする。聡次郎さんのお母さんを悪く言いたくはない。けれど数々の仕打ちには精神的に限界が近い。

「母さんが強引でごめん。梨香との婚約を白紙にしたら、俺の望まない相手と結婚をしないっていうのを逆手に取ってるんだ。俺が愛華さんを好きになるように仕向けてる」

そういうことか。無理矢理愛華さんを近づけるのは策略で、私が龍峯を退職したあと聡次郎さんが愛華さんを好きになって、結婚したい相手に愛華さんを選べば何も問題ないということ。

「あんなこと言わなきゃよかった……」

今更後悔しても遅いのだけれど。

「だからこっちも逆手に取る」

「どういうこと?」

「梨香が龍峯を辞めて婚約も白紙にしたら俺の好きにしていいって言ったんだよ。だから一緒に住もう」

聡次郎さんの滅茶苦茶な言い分に今度は私が笑った。
確かに強引な奥様にはこちらもこのくらい強引に意見を押し通さないと勝てないのかもしれない。聡次郎さんと奥様はやっぱり親子だなと思い、真剣な表情の聡次郎さんを微笑ましく思う。
けれど聡次郎さんとの今後を考えるとこの部屋に住むのは落ち着かないかもしれない。

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