アフタヌーンの秘薬

「仕方ないだろ。愛してるんだから」

「な……」

口をパクパクさせて言い返す言葉を探す。そんな私の口を聡次郎さんの唇が再び塞ぐ。

「っ……ん……」

侵入してきた舌が私の舌を絡めとる。抵抗するのを諦めた私からやっと唇を離すと、「文句ある?」といじわるな顔をする。
文句しかない。そう言い返したいのに私の口は「愛してる」と囁いた。その瞬間もう一度2人の唇が重なった。



◇◇◇◇◇



龍峯の最終日、ビルの中には立派なアレンジメントが社内のあちこちに残されているだけだった。
愛華さんの姿はなく、花山さんに聞くと龍峯には来ないとだけ冷たく言われた。彼女はここで楽しそうに働いていた。私のせいで居辛くなったのなら申し訳ない気持ちになる。

奥様に結婚の報告をするために時間を作ってくれるよう聡次郎さんからお願いしてもらった。今夜慶一郎さんたちにも報告するつもりだ。もう何を言われても私たちの意志は固い。





開店準備を終え10時になった瞬間お店のシャッターを開けた。看板を外に出すと道路の向こうからお茶通のお客様である松山様が歩いてくるのが見えた。

「まずいっ」

思わず声に出して焦った。今日はお昼まで私1人でお店にいるので松山様のお相手は自然と私だけでやらなければいけない。悪いお客様ではないけれど、お茶に厳しい方にお茶を出すのは毎回緊張した。

「いらっしゃいませ」

目の前に立った松山様にお辞儀をした。

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