アフタヌーンの秘薬

「おはようございます。今日は来客用のお茶を買いに来ました」

「ありがとうございます。どうぞ」

松山様を店内に入れるとお茶の準備をした。
試飲用の玉露の茶の葉を急須に入れ、分量のお湯を注ぐ。緊張しながらテーブルに茶碗を置くと松山様はイスに座りお茶を飲んだ。

再びお店の自動ドアが開き別の男性のお客様が来店された。

「いらっしゃいませ」

「この間お姉さんが選んでくれたお茶、おいしかったよ」

そう言ってお客様は笑顔で私のそばに来た。この方は以前に私がお茶の好みを聞いて商品を選んであげた方だった。

「それはよかったです」

「また同じのをいただくね」

「ありがとうございます」

男性は同じ商品を購入して帰っていった。
一連のやり取りを見ていた松山様は「龍峯の従業員として様になってきましたね」と言った。珍しい褒め言葉に嬉しくなる。同時に今日が最後の日だと思うと寂しくなった。この仕事がいつの間にか大好きになっていた。

そのとき事務所のドアが開いて奥様がお店に入ってきた。風呂敷で包んだ小物を手に持ちながら奥様は私を見た。その目は敵意に溢れていた。まるで私が龍峯を滅ぼそうとする悪魔だとでも言いたげに。

「あら奥様、お久しぶりです」

松山様は奥様ににこやかに挨拶した。

「松山様、お久しぶりでございます」

奥様は松山様に気づき一礼するとテーブルに近寄った。

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