アフタヌーンの秘薬
「嬉しかった……初めて私が淹れたお茶を褒めてくれた。今まで1度も褒めてくれなかったのに」
「梨香のお茶がうまいって言ったら、勉強することをやめてしまうんじゃないかって思った。これからのためにまだまだ腕を磨いてもらわなきゃいけないし。それに……」
聡次郎さんは目を伏せた。
「もう俺に淹れてくれなくなるんじゃないかって思ってたから」
「そんなわけないじゃない。ずっと聡次郎さんが好きなお茶を淹れてあげる」
お互いに見つめ合って顔を近づけた。
「梨香と会う度、梨香のお茶を飲む度にどんどん好きになる」
「まるでお茶が惚れ薬みたい」
「俺には効果抜群だよ」
聡次郎さんに喜んでもらいたくて何度も何度も勉強して練習した。
「お爺ちゃんお婆ちゃんになっても一緒にお茶を飲みましょうね」
「ああ」
私の唇に聡次郎さんの唇が優しく触れ、徐々に貪るような深いキスに変わる。
「なあ……梨香」
キスの合間に私の名を呼んだ。
「お茶淹れて」
「はいはい」
甘い雰囲気を壊さないおねだりに私は微笑んだ。
これからいくらだってあなたのために最高のお茶を淹れてあげるから。
◇◇◇◇◇
大型商業施設や高層ビルが立ち並ぶ市街地から徒歩圏内に海を一望できる小高い丘があり、その上に山小屋風の木造の店が建てられている。大きな窓から潮風と太陽の光が差し込み、柱の少ない解放感のある店内には観葉植物とフラワーアレンジメントが飾られている。