【完】『轍─わだち─』

まりあが言った。

「憧れかぁ」

「ただそいつは走れなくて、そのまま陸上やめて就職したけどね」

「それじゃ無意味じゃん」

つばさは言った。

「いや、そう無駄でもないらしい」

「でも箱根には出られなかったんだよね?」

「陸上で分かったのは、いかに威厳をもって負けるかってことなんだってさ」

「威厳をもって負ける?」

つばさは首をかしげた。

「なんでもスポーツってのは正々堂々と勝って、威厳をもって負けるのが大事で、負けたときにジタバタするのは、みっともいいもんではないらしい」

だからスポーツは負け方を覚えるのが大事なんだそうだ、と耀一郎は言った。

「つまり、走れなかったときのことが大切ってことなのね」

まりあは理解したようである。

「人生、いつも勝つばかりではないからね。負け方を知ってると、ダメージを最小限にすることも可能らしい」

この言葉はつばさの胸に、しばらく刺さったままであった。



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