君への轍
うん……。

それも納得の美人さんだとは思う。

思うけど……なんてゆーか……師匠とは合わないよな……。

今のパパさんに守られてるのが似合いすぎて……師匠の心ない言葉一つでめっちゃ傷ついて泣かはりそうというか……。

ああ、そうか。

だから2年で逃げ出したのか……。


……そうだ。

師匠、なんて言ってた?

前妻のところに残した実の娘に気兼ねして、目の前の子どもと距離を取った?

かわいがれなかった?

……それって……あけりちゃんのことだったのか……。

うーん……。

あの師匠が冷たく接したと自覚してるぐらいなんだから、本当に素っ気なかったんだろうな。

なのに、あけりちゃんは、たぶん師匠と仲良くなるために自転車競技を始めた……。


くそっ。

いじらしいなあ。

師匠、ひどいよ。

ちっちゃいあけりちゃんを、普通にかわいがってあげてほしかったよ……。


あ。

そっか。

あけりちゃんが俺の競走に好印象を抱いていたのも……師匠のタイトルに俺が貢献したからか……。

一応……そのあたりは、師匠のおかげなのかな。  



師匠。

どうしてるかな……。

早朝の街道練習にも、バンクでの練習にも、当分は参加しないつもりらしい。

だからと言って、練習してないなんてことは、師匠に限ってあり得ない。

たぶん、師匠のことだから、整体やマッサージにがっつりお世話になりながら、自宅のジムで身体を作り直してローラーを踏んでいるのだろう。

本気で、来月の宮杯に間に合わせるつもりだろうな。


……様子……見に行きたいけど……今、逢ったら、俺、あけりちゃんのこと、聞いてしまいそうだな。

デリカシーないことはしたくない。

あけりちゃんと、あけりちゃんママにとってトラウマのようになっているなら……勝手に俺がどうこうしていい問題じゃない。

……結局、俺には何もできないんだよな……。



……。

……。

……。


練習、しよ。




薫は、再び、頭を真っ白にして、もがいてもがいてもがき倒した。

呼吸困難でぶっ倒れるほど、記憶がぶっ飛ぶほど、ストイックにペダルを踏んだ。

 



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