ほしの、おうじさま
プロローグ
「東ノ京大学、経済学部より参りました、星の王子と申します」

最初、この人は一体何をふざけているのだろうかと思った。

入社試験の一次面接の真っ最中なのに。
自分の人生がかかっているのに。
言うなれば一世一代の晴れ舞台であるというのに。

何故にいきなりそんなひょうきんなギャグを繰り出したのかと。

「いや~、なかなかインパクトのある名前だね」

しかし面接官のその一言ですぐに謎は解けた。
彼はただ単に自分のフルネームを口にしただけに過ぎなかったのだと。

後に、そこには「星野央路」という漢字が当てはまる事実を知るのだけれど、当然、その時点の私にはまだ把握できておらず。
一度脳内に浮かんでしまった「星の王子」の字面を払拭するのは到底無理な相談だった。

そして面接の際の自己紹介なのだから当然といえば当然なのだけれど、その口調があまりにも生真面目で厳かなトーンだったものだから、そのワードとのアンバランスっぷりがもうどうにもこうにもおかしくて。
その後数十分間、私は込み上げる笑いを押さえ込むのに必死であった。
人間『笑っちゃいけない』と思っている時ほど、その禁忌をおかしたくなるものなのだ。
なのでぶっちゃけ一次面接でのやり取りはろくすっぽ覚えちゃいない。
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