ほしの、おうじさま
前半部分は研修の時に、後半は先輩方との休憩時の会話から仕入れた情報だ。
でも、とにかく秘書課に配属されるのはコミュニケーション能力が抜群に高く、才色兼備で将来有望な人ばかりであるのは間違いない。
まさに野崎さんは選ばれるべくして選ばれた人だという訳だ。

「こんなに間近できちんと見たのは初めてだけど、すごく素敵な制服だよね~。桜の木をモチーフにしてるんだっけ?野崎さんにとても良く似合ってて…」
「そんな不躾な視線を向けないでもらえるかな?」

思わずうっとりしながら発した言葉を彼女は速攻ではね除けた。

「誉めりゃ許されるとでも思ってんの?全身ジロジロと眺め回して、チョー感じ悪いんですけど」

「あ。ご、ごめんね」

仰る通りなので、私は慌てて謝罪した。

そりゃそうだよね…。

頼まれてもいないのに、人様の服装チェックをするなんて失礼にも程がある。
するとその間に、背後から歩いて来た阿久津君は私達の傍らをさっさとすり抜け、部屋の中へと入って行ってしまった。

ちょっ。

同期の子が自分の部署にお客様を連れて来てくれたんだから、「お疲れさま」なり何なり、一言くらい声かけしてもいいでしょうが!

「…ずいぶん仲が良いのね」

阿久津君の背中に向かって突っ込みを入れていると、元々不機嫌そうな声音だった野崎さんは更にそれを増大させて呟いた。

「一緒に飲み物を取りに行くだなんて」

急いで彼女に視線を戻すと表情も思いっきりそれに連動している。
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