ほしの、おうじさま
「いや。ただ単に、あなたが阿久津くんにまとわりついていただけなのかしら?」

「へ!?」

「同じ室内で仕事してるんだもん。彼の動向を探るのは充分可能だろうしね」

「ち、ちがうよっ」

私は心底てんやわんやしながら返答した。

「一応課と課の境にはパーテーションがあるからお互い丸見えな訳じゃないし…。っていうか、たとえ姿が視界に入ったからといって、阿久津君にわざわざ付いて行ったりしないよ。とてもそんな余裕なんかないし。ホント今回はたまたまこうなっただけで…」
「まーたまたぁ。誤魔化さなくても良いわよ。星さんの言う事なんて信用してないから」

しかし野崎さんはピシャリと私の弁明を遮った。

「ホントあなたって、地味で冴えなくておとなしそうな顔をしているくせに計算高くて油断ならないんだから」

そして憎々しげにそう捨て台詞を吐くと、その場から足早に立ち去って行った。

…えぇ~…。
何でこうなっちゃうの~…。

思わず呆然としながら野崎さんの後ろ姿を見送る。

どうしてこう次から次へと、彼女に対して多大なる誤解を与えてしまう事態になるのだろうか。
よりにもよってこのタイミングで鉢合わせしちゃうなんて。
間が悪いにも程があるよ。

そんな風にグルグルと考えを巡らせていたけれど、いつまでもそうしている訳にもいかず。
私は大きなため息を一つついた後、重い足を引きずるようにして歩き出し、自分のデスクへと歩を進めた。
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