ほしの、おうじさま
まるで自分の事のように、この上なく誇らしげな表情と声音だ。

「上層部も一目置くカスタマー対応で、社内ではレジェンドになりつつある人なんだ」

「そうなのですか…」

「何しろ『通常モード』から『対お客様モード』への切り替わりが素晴らしいだろ?ジキルとハイドかっていうくらいの豹変ぶりだよなー」

「い、いえ、えと…」

ここで「そうですね」なんて肯定したら、さも普段は無愛想な人であると言っているようなものだよなと返事を躊躇している間に、高橋さんはポツリと呟いた。

「ここは舞台。私は女優」

『え?』と思いつつ視線を向けると、どこか遠くを見つめるような眼差しで言葉を続ける。

「どんなご意見にも平身低頭、真心込めて対応する、熱血お問い合わせ窓口社員役を演じきるのが私に与えられた使命……という心持ちでお客様と接すれば、どれだけ厳しい言葉をぶつけられても、無駄に精神を疲弊する事はない。何故ならそれは仮初めの世界で起こっている出来事なのだから」

「な、なるほど…」

圧倒されつつも、とても説得力のあるその言葉に私は思わずそう呟いた。

考え方によっては『現実逃避』と捉えられなくもないけれど…。
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