ほしの、おうじさま
そんな事を考えながら約一時間前に中断した作業の続きに取り掛かかり、一日のノルマ分まで終わらせた後、新たに渡辺さんから指示された業務を進めているうちに定時となった。
デスク周りを整理整頓し、遅番の方達に「お先に失礼します」と挨拶しつつ、先輩の田中さんと共に更衣室へと向かう。

「じゃ、また月曜日ね~」

何事も手早な田中さんはさっさと帰り支度を済ませ、そう口にしながら出入口へと向かった。

「あ、はい。お疲れ様でした」

ケータイの着信チェックをしていた私はそう言葉を返し、田中さんの後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、引き続きその作業を進める。

電話は無しだったし、5通ほど届いていたメールはすべて色々なサイトからのメルマガで急を要するものではなかった。
ただ、某通販サイトがセールを実施していて、『最大70%オフ』等と記載されているのを見て、大いに興味を引かれた。

『家に帰ってやるべきことをやって、くつろぎタイムに突入してからゆっくり閲覧することにしよう』

そう取り決めをして、ケータイをバッグに戻し、帰り支度を始めた。
それを終え、ロッカールームを出てエレベーターに乗り込み、一階で降りてロビーを足早に通り過ぎ、ビルから出る。
花の金曜日という事で、ウキウキワクワク弾む心を抱え、自然と軽やかになる足取りでアパートへの帰路を辿った。
< 152 / 241 >

この作品をシェア

pagetop