ほしの、おうじさま
☆☆☆☆☆
自分がエキストラ気質だなんて事はとっくの昔に認識していたハズなのに、なぜにあの場面で涙腺が弛んでしまったのか…。

それ以降、ふとした瞬間にその事を考えてしまうようになった。
というか時間の経過と共に、全く親しくない男子の前でベソをかいてしまったという事実が徐々にこっ恥ずかしさを増して行き、最終的には『うわああっ』と頭をかきむしりたくなるレベルにまで到達していた。
同じフロア内に居るのだから阿久津君の姿はコンスタントに視界に入ってしまう訳で、だからこそいつまで経ってもその記憶が底の方に沈んで行ってくれず、事あるごとに思考を占領される羽目になるのだろう。
そんなこんなで時折発作のような悶絶タイムに襲われつつ、しかしそれを必死に押し隠して日常生活を送っていた私であったが。
せめてもの慰めにと神様がはからってくれたのか、思いがけないハッピーサプライズに見舞われる事となったのだった。

「失礼いたします」

あと数十分でマーケティング課の早番の定時を迎えるという頃、そう言葉を発しながら星野君が宣伝部フロアへと入室して来て、そのままマーケティング課長のデスク前まで歩を進めた。

「お忙しい所すみません。私、企画課の星野と申します」

「ああ、お疲れさん。どうしたの?」

「昨年度の、ウインターキャンペーンの際のお客様満足度データをお借りして来るよう企画課長より指示を受けまして、参った次第です」
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