それは許される恋…ですか
こんな時間に店に来るのは誰だろうかと思い、足音に耳を澄ます。

カタン。

事務所のデスクの上に荷物を置く音がしてる。
店長に違いない…と思いつつ、挨拶するべきかどうか迷った。


息をするのにも緊張した。
来ないと言ってた人が来ることを想定してなかったせいもある。


そ…とロッカーの扉を閉めたくても、どうしても音がする。

カチン…という音にデスクからの反応がしなくなる。
私と同じように、白瀬さんも緊張してるんだ…と思った。


ドクドク…と血液の走る音のような動悸を感じながら厨房へ行こうとした。
響かなくてもいいのに、バッグヤードの中に足音が響いていく。



「桃」


呼ばれるけど振り向けない。
私には厚哉しか居ないんだと、昨夜十分知ったから。


ゴクン…と唾を呑み込んだ。
惑わされないんだ…と思って振り返ると、白瀬さんはホッとしたように口元を緩めた。


「……おはようございます」


態とらしく語尾に「店長」…と付けた。
この人は私の尊敬する上司であって、恋愛感情のある相手じゃないんだと思わせる為に。


「おはよう」


返してくる声が暗い。
昨日のことを反省しているようにも聞こえ、隙を見せた自分にも非があると思った。


「今日もよろしく頼む」


母親のことを言ってる。
声には出さず、こくっ…と力強く頷いた。


< 144 / 146 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop