黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う



ここはセルティカ王国。

大陸一つをまとめる、大きな大きな国。

ヒューマンもケットシーもドワーフもマーメイドもヴァンパイアも、そしてエルフも。

試行錯誤しながら、手を取り合って歩んでいく道を、探している。

―――最中。

・・・私だって、その1人だ。


「アムネシア、また外を眺めてるのか?」

私はその大好きな声に、大好きな匂いに、それを噛み締めるようにしてゆっくりと振り返る。

「うん。・・・本当に、本当にこれでよかったのかな、って」

眼下に広がる街並みも、海も、森も、見た目は何も変わりはないけれど。

決定的な、違いがひとつ。

「俺たちは皆ひとつになった。俺たちの、いちばん、はじめに戻ったんだよ」

それは、私たち種族を隔てていたものが、無くなったということ。

容姿の違いはある。そんなことじゃない。今まで私たちをもっと大きく隔ててきていたもの。

“力”。

それが消え去ってしまった元のセカイは、もう跡形も無く崩れ去り、壊れて、しまった。

皆の中からそれを『奪った』のは、ヘルの力で。

でも同時にヘルの“力”も勿論失われてしまった。彼は、そして私はこう願ったから。『このセカイの全ての“力”を奪いたい』と。

私の牙もすっかり元に戻った。眷属にする力が失われたためであろう。

・・・ということは、と。犬歯の辺りをなんとなく触りながら、私はぼんやりと思いを馳せた。

タリオはヒューマンに戻れたのだろうか?

メルレアにかかっていた呪いは解けただろうか?

・・・いや、きっとそうに違いない。

あとは立場の変わった2人がまた巡り会えるのを、祈るのみ。


こんこん、とドアがノックされた。

「どうぞ」

「失礼致します」

静かに戸を開けて入ってきたのはリーンだった。彼女は朝の支度を手伝ってくれるのはもちろん、ここ最近は毎日の日程の連絡までしてくれている。

「何度も言うようだけど、貴方自分の仕事だけで忙しいはずなのに、こんな事しなくても・・・伝令はいるはず」

「いえ、私がしたいだけなのです、陛下。させてください」

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