黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う

「凄、い」

私はすっかり少年に目を奪われた。

地を蹴り、不自然に厚い外套を翻し、ん、外套―――?


全体重をかけるように、がしゃん、と衝動的に柵に手をつける。

その柵の限られた隙間から、できるだけ顔を覗かせ目を凝らす。

この少年、あのときの。

地を蹴り、外套を翻し、透けるような紫の髪をたなびかせ、深紫の隻眼を細める彼は。

「・・・ヘリオトロープ」

彼があの紫色の小さな花を片手に告げたその名を、なぞるように紡ぐ。

この少年は、なんて身軽に翔ぶんだろう。

背に幻の翼が見えそうなくらいだ。

このセカイのしがらみを、全てすり抜けてしまいそうな翼。

羨ましい。

私も、きみみたいに、翔べたら。

ここから、出ていけるのかな。

私の、心。


私を閉じ込める蔦の柵から、ゆっくりと手を伸ばす。

指先、手首、肘、肩。もっと―――

ぎしっ、と軋む音。

「あは・・・」

あのとき私を見つめた紫が、脳裏をちらついた。

きみは、外のセカイで、その紫の瞳に何を映しているんだろう―――?


くわぁん、と今1度鐘が鳴り響いて、私は腕を勢い良く引き抜いた。

腕を抱え、早鐘を打つ胸を抑える。

私は、何を、何をしていたの。

腕を抱えたまま、ずるずるとしゃがみこむ。

ひんやりとした石畳の床は、私の頭を程良く冷やしてくれた。



外からの陽を喪った部屋は、暗く闇に閉ざされ、深く深く、黒に堕ちていく。


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