好きにならなければ良かったのに

「私だって幸司さんと一緒に入りたい」

 何故そんな大胆なセリフが言えるのか。さっきまでの自分が信じられないほどに大胆な行動に出る。
 若干頬は赤く染めているが、幸司から手を離すとボタンを外し服を脱ぎ始める。

「こんな俺とじゃ嫌なんだろう?」

 『こんな』とはどういう意味なのか、考えた美幸は頭を横に振った。きっと、晴海と浮気していたことを意味してるのだろうと思ったが、元々二人は恋人同士だったのだ。二人の間に入り込んだ邪魔者は自分の方だと、美幸は冷静になるとそんな考えが頭を過ぎる。

「ごめんなさい」

 美幸の口から自然とその言葉が出て来る。やはり、幸司は愛しい男性なのだ。その男性から愛する女性を遠ざけてしまったのは自分であり、自分の方が幸司と晴海の間を壊した張本人なのだと、罪の意識に囚われてしまった美幸は罪悪感に苛まれる。

「ごめんなさい」

 脱いだシャツを胸元でギュっと両手で握り締める美幸は、脱衣所から逃げるようにベッドルームへと行く。ベッドの前まで行くと暫くそのまま立ち竦んでいたが、ベッドの端に座るとシャツを膝の上に起く。俯いた美幸は上半身ブラジャー姿のまま目は完全に虚ろになる。

「私……」

 何をどう言えば良いのか頭が混乱しだす美幸はシャツを胸に抱きしめ乍ら目からは大粒の涙を流し始める。

「ごめんなさい」

 その言葉ばかりが口から出てきて止まない。大粒の涙も止めどなく溢れ流れる。美幸は泣き声こそ声に出していないが、それでも洗面所にいた幸司には悲しむ美幸の様子がひしひしと伝わってくる。だからと、ベッドルームへ追って行くことをせずに浴室へと入って行く。
 暫く泣いていた美幸だが、浴室からお湯が流れる音が聞こえるとぐでんとベッドに横になる。

(一人で入っちゃったんだ……)

 一緒に入りたかったと思いながら仰向けになった美幸は両手で顔を覆う。指先で涙を拭いながら天井の眩しい照明を遮ると、この後このベッドで幸司はどうするのだろうかとそんな想いがフッと頭を過ぎる。

(いつもと同じ夜を迎えるだけだわ。あ、そう言えばパジャマって……)

 ひょいとベッドから起き上がると自分の下着姿を見て少し考えた。着替えも何も持っていないのに、それにパジャマも何もない状態でどうやって眠るんだろうかと、少し考えてみる。しかし、ラブホテルへ来て服を着て眠るものだろうかと思える。そもそもラブホテルとはそういう行為をする場であり、そのまま寝てしまうのではと……。

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