好きにならなければ良かったのに

 店を出たものの、酔って暴れようとする美幸と吉富の二人を乗せるタクシーはなく、渋々駅方面へと歩いていくことに。

「美幸ちゃん、家の人に迎えに来てもらおうか。で、家の電話番号教えてくれる?」
「やー、ひえにかえんらーい」
「困ったな……何処かで休んでいくか?」

 美幸をかつぎ上げるその腕が痺れ始める。吉富も多少は飲んでいた為に、いつもの体力はなく少し疲れが出始めた。

 すると、前方にラブホテルだが一応休憩出来る場所を見つけた。

「本意ではないが致し方ない……行くぞ、酔っ払い」
「えー、ろこ?」
「取り合えず休むところへだよ、そこのラブホへ行くぞ」
「えー、こーじといくー」
「はいはい、そのコージ君は今頃は晴海ちゃんとラブホに居るかもよ」

 酔っ払いの筈の美幸なのに、今のセリフの時だけは素面に戻ったのかと思えるほどに視線が鋭くなる。

「こーじは、いかない。こーじは、わらしのものなんらから!!」
「はいはい、コージ君は美幸ちゃんのものね」
「らって、コッコンしれーっれ、いわれらのわらしなんらからー」
「…………日本語になってないだろ。喋るなら、分かる日本語で喋れ」
「やらーー、こーじらいいー」

 いきなり泣きながら叫び始めた美幸。手に終えなくなった吉富は早くラブホテルで休憩しようと、その足を急ぐ。
 何とかホテル前までやって来ると、空いている部屋を見つけようと美幸を抱き上げようとした。

「どけ」
「え?」

 美幸の体をヒョイと抱え上げたのは幸司だ。酒に酔った美幸は半分眠りかけていて、幸司の腕の中でぐったりしている。

「課長、力強いですね……」
「飲ませてホテルへ連れ込む気か?」

 吉富を睨み付けると美幸を自分の車へと連れていく。後ろ姿を見せる幸司へ吉富は皮肉っぽく言い返す。

「美幸ちゃんを愛人にするのも悪くないですよね」

 歩道に座り込んだ吉富が幸司を見上げてニヤリと笑う。

「あんたが晴海ちゃんを愛人にしてるように、俺が美幸ちゃんを愛人にしてやっても良いですよ」
「何だと?」
「どうせ美幸ちゃんはお飾りの妻なんだろう?」

 吉富の言葉には幸司は何も言わずに車へと乗る。助手席へと美幸を乗せると幸司は車を走らせた。

「その助手席は晴海の指定席だろう? なあ、課長さんよ」

 走り去った車を見つめながら吉富がポツリとそう呟く。
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