all Reset 【完全版】



無表情で、ただ不思議そうな顔をしているだけの亜希。


それを見て良平は一瞬固まる。



「あれ? 反応無しかよ」


一人へらへら笑ってみる良平。



やっぱり……


何かがおかしい。



「……亜希?」


違和感を感じながら俺は亜希を小さく呼ぶ。


「おい、亜希」


良平も冗談をやめていた。


俺たちの呼び掛けに亜希は目をパチパチとさせ、何かを言おうと口を開く。



でも、言葉を発さない。



そのうち両手で口を覆い、目に涙を溜めだした。




……どういう…ことだ?




途轍もない不安が襲ってくる。


そんな時、突然病室の扉が勢い良く開かれた。


振り返ると、さっき出て行った看護師と、すぐ後を追うように一人の女医が入ってきた。


女医は俺らを気にする様子もなく亜希に近付く。



「白石さん?」



呼び掛けられた亜希は、涙を溜めたまま女医の目を見つめていた。


身体を震わせ、口を覆っていた手で頭を押さえる。


その光景を俺も良平も黙って見ているしかできなかった。



「江藤さん、頭部CTスキャンと脳波検査。あと、頭蓋骨レントゲン撮影もしましょう」



専門用語で並べられた女医の指示に、看護師は素早く返事をして部屋から出て行く。



「あのっ」



緊迫した空気が漂う中、良平が引き止めるように女医に声を掛けた。


改めて俺らを見た女医は、冷静で落ち着いた顔をしていた。



「これから検査をするから、外で待っててもらえる?」


簡単にそれだけを言い、スタスタと病室を出て行く。



病室を出る寸前に見た亜希は、俯き加減で一点を見つめているだけだった。


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