櫻の園
耐えきれなくなったように、葵があたしの名を呼んだ。

あたしは渇いた笑みを貼り付けると、そのまま踵を返して葵たちに背を向けた。


あたしができる表情なんて、もうほとんど残っていなかった。


終わりはなんてあっけないのだろう。バイオリンの時も、仲間が崩れる時も。


「努力は実る」だなんて、あんなの本当に綺麗事だ。誰しも越えられないものはあるのに。

良い悪いの基準だとか、塗り替えられない古い過去だとか、縛られた伝統だとか。


葉桜が揺れる。あたしを嘲笑い、底辺まで突き落とす。


縛られるものはなにもない。完璧な自由だった。無意味に頑張ることも、悩むことからも解放されて。


…でもそれは、もう何も残っていないことと同じなんだ。



大声で叫びたくなった。でも、声が出なかった。



強い風がゴォッとスカートを煽り、あたしの全てを奪い去った。







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