1ページの物語。
-2月14日-


放課後、あなたが1人教室からグラウンドを見ている姿を見て

今日1日タイミングを失った最後のチャンスだと思った。


「ねぇ」


「何?」



彼の視線がグラウンドから自分に向けてくれただけで心が踊る。



「今日なんの日か覚えてる?」


「そりゃあ男が忘れる訳がないだろ。

何、くれんの?」


「…欲しい?」


「そりゃあ、この日をワクワクしながら過ごす男の子だからな」


「じゃあ……」


あげる、そう続いて鞄の中にラッピングされた袋に視線を向け手を鞄の中に入れ袋を掴んだが、



「あ!でも、いいや」


「え…?」



彼の言葉に緊張して震える手が止まった。


「今年は願掛けしてるんだよね」


「願掛け?」


「好きな人に貰えるように義理でもチョコは貰わないって」


「好きな…人」


顔を赤らめ頭を掻きながら私からグラウンドに向けた彼の視線は

声を掛ける前に向けていた方向だ。



ただグラウンドを見ているだけだと思ってた…。


唖然と彼の背中を見ていると、振り返って私に笑み向けた。

その直後、野球部のバットにボールが当たる音が響き、

マネージャーの「ナイスっ!」という声が聞こえた。


「だから悪ぃ、20円チョコでも受けとるの遠慮しとくわ」


馬鹿野朗。


「そっか」

馬鹿野朗。


「……残念だなぁ…ホワイトデー」


「20円チョコでホワイトデー期待するなよなぁ」


なんで20円チョコって勝手に決めつけるのよ。

鞄の中で掴んだラッピングされたチョコは20円チョコの何十倍も掛けて作ったチョコなんだよ。

無意識にラッピングを掴んでいた手に力が入る。


「そっか…じゃあさ、もし…直接じゃなく間接的に渡されたらどうするの?」


「そこまでしてくれる奴なんていないと思うけど…まぁ、それは捨てるなんて事できないし仕方ないから受け取るかな」


「ふぅん…まぁ、そこまでしてくれる人いないと思うけど」


「分かってるわ!」


笑って君は否定するけど全然分かってないよ。


「…いらないって言われちゃったし、先生にでも渡して帰ろうかな」


「おー、帰れ帰れ」


「ふんっ、じゃあね」


「またな、あ、あと一応くれようとしてくれてありがとな」


「あー…うん」



作り笑いで彼に手を振って教室を出ると鞄からラッピング袋を取り出した。

昨日ワクワクしながら作ったチョコ。


人生初めて手作りしたチョコ。



「先生には重すぎだよね」



職員室には向かわず、迷いなく靴箱に行き、自分の靴箱じゃなく彼の名前が書かれた靴箱の目の前に立った。


『受け取るかな』


照れながら、少し気まずそうにそう言っていた彼を思い出す。

ちゃんと直接渡したかったけど…


「受け取ってね…」


こっそり彼の靴の上にチョコを置いて彼の靴箱を閉じる。


来年は手渡しで受け取ってくれるかな…?



校舎から出てグラウンドから教室に顔をを向けると、やっぱり彼は同じ方向に視線を向けたままだった。


同じグラウンドにいるのに彼は野球部に声援をしているマネージャーに一直線だ。


「ばぁか…」


マフラーを口元まで上げると走ってその場から去った。

高2のバレンタインデーは甘いなんて言葉は遠く、とても苦く、辛い思い出になった。



【2月14日】

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