1ページの物語。
-真っ赤な傘-




「何やってんの?」


「………見たら分かるでしょ?雨宿り」



閉店したお店の下から外を指差すと、あぁと分かった様に頷く。



「この雨まだ止みそうにないぞ」


「そうみたいだね。何?入れてくれるの?」


「悪いけどこれから予定あるのでそれはできませーん」


「そんなこと分かってましたー」


馬鹿にした様に語尾を伸ばした言い方を真似して返事をするとあいつが笑うから

つい私も口が緩む。


「「………」」



数秒の沈黙が2人の空間に生まれたが、あいつが曇り空を見上げた事によってそんな空気も終わった。


「まぁ母ちゃん呼ぶか、妹がこの道を通るのを待つかして風邪引く前にさっさと帰れよ。

この雨夜まで止まないらしいから」



手を振りながら去って行くあいつの背中。


「ねぇっ!」



大声で呼び止めると、あいつは足を止め振り返った。


「何ー?」


「…どうせ彼女の家に行くんでしょ?」


「正解、なんで分かったんだよ」


即答か…。

悔しさで鞄を持つ手に力が入る。



「そんなの…あんたが持ってる傘見たら分かるわよ」



真っ黒が好きなあんたが真っ赤な傘を持っている時点でそんなことお見通しだ。


「昨日あいつん家泊まったんだよ。
で、今日の朝、借りた。

今日は雨降るから持って行きなって。
それで帰り返しにまた寄ってって…可愛いよな」


「…そうだね」



顔を下げて視界にあいつを入れることをやめた。

だってきっとあいつは笑ってる。
私が見たことない笑顔で笑ってる。

きっと彼女にしか見せない優しい笑顔で笑ってる。


そんな顔するあいつなんて見たくなくて目の前にできた水溜りをジッと見つめた。


「それじゃあ」


あいつの挨拶には手を上げただけの返事をし、水溜りから顔を上げると

小さくなっていく背中が見えた。


後ろ姿を見つめながら思い出すのは些細な思い出。



『あ、雨降ってる』


『うげ、最悪だ。俺、持って来てねぇわ』


『しょうがないなぁ………私の傘、入る?』


『いや、遠慮しとく。

そんな真っ赤な傘、恥ずかしくて入れねぇわ』


『…何その言い方、親切してあげようと思ったのに!』


『俺は一瞬でもそんな色の中入りたくねぇ!
真っ黒の傘持って来い!』



あいつが持っている真っ赤な傘が完全に視界から消えた。



「黒じゃないじゃん……」


なのに、その真っ赤な傘には入れるんだね。


私の震えながら発した言葉は激しくなっていく雨のせいであいつには届かない。



【真っ赤な傘】

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