魔法使い、拾います!
リュイが自分の感情を持て余していると、まだ「close」にしてあるはずのお店の扉が“カランカラン”っと鳴って、開く音がした。扉に付けてある小ぶりの鐘が鳴った音だ。きっとヴァルが帰ってきた時に、鍵を閉めなかったのだろう。

「おーい、リュイ!看板がcloseなのに扉が開いているぞー?」

無作法な声と共に聞こえる、許可を待たずに二階に上がってくる足音。物凄く聞き覚えのある声に、リュイは救われる思いだ。こんな時自分の気持ちを開放してくれるのは、やはり信頼できる幼馴染みのお兄ちゃんしかいない。

リュイは階段近くまで駆け寄ると、満面の笑みで出迎えた。

「グレン!おはよう!」

一人暮らしのリュイを心配して三日と開けずに顔を見せてくれるグレンは、親友ララのお兄ちゃんである。ララとグレンの兄妹とは幼馴染で、リュイにとってもグレンは兄と慕う存在であった。

いつもは優しいお兄ちゃんなのだが、グレンはヴァルを見るや否や、一瞬にして笑顔を険しい表情に変える。

「お前は誰だ!?何で男がここに居る!?」

かっとなったグレンがヴァルに掴みかかりそうになった。ヴァルは今、マントを羽織っていないのでグレンには魔法使いだとは分からない。

少し口の悪いグレンだが、実はカタの町長の息子であり行く行くは町長になる身だ。こんな態度をとるのも、リュイを心配してのことである。

と、リュイだけがそう思っていた。グレンのリュイへの恋心など誰の目から見てもダダ漏れていると言うのに。

一件乱暴者のように思えるこの言動も、嫉妬以外の何物でもない。

本来のグレンは町の人達に慕われる、気さくな人気者なのだ。つい先日のグレンの二十一歳の誕生日パーティーなどは、町の人達が主催したくらいである。

「待ってー!!ちょっと待ってグレン。違うの、話を聞いて!!」

咄嗟に駆け寄ってグレンの胸元を抑えるリュイに、ヴァルから質問が飛んだ。

「これは随分と無作法な方ですね。主はチンピラとお知り合いなのですか?」
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