魔法使い、拾います!
その時、木陰からリュイの視界に藍色のマントが見えた。もしかして先回りして迎えに来てくれたのかも。こんな状況なのについ顔がにやけてしまう。

「ヴァル!?」

有り得ないと思う一方で、期待を込めて声をかけてみた。

「すまないね。私も魔法使いではあるがヴァルではないのだ。ところで……。私も丁度ヴァルを探しているところでね。どこに居るか教えてくれないかね?どうやら気配を消す魔法をかけているようで、正確な居場所が特定できず困っていたのだよ。」

木陰から姿を現したのは五十代くらいの紳士であった。ヴァルと同じ藍色のマントを羽織っているので、言われなくても魔法使いだと分かる。その紳士に、威厳たっぷりの冷ややかな目でリュイは見下ろされていた。

「私、知りません。」

迷うことなくリュイは知らないふりをした。本能が危険を察したのだ。鈍感なリュイにも分かるほど、この紳士は不穏な空気を醸し出している。

「おや、嘘はいけないなぁ。嘘をつくとね、大抵の人は後悔する。お嬢さんも肝に命じておいた方がいい。」

「でも、知らないものは知らないから。」

「たった今言ったでしょう?嘘をつくと後悔するって。まぁ、いい。それより……。胸元のそれ……。お嬢さんもそのペンダントの持ち主でしたか。あなたが居れば間違いなくヴァルは王宮へ来てくれそうだ。」

「どういう意味ですか?」

魔法使いの紳士は有無を言わさずリュイの腕を掴み、魔法の杖を掲げた。

「移動。」

ヴァルが放つ心地のいい響きとはまるで違う、地を這うような低い声。抵抗する間もなく一瞬でリュイはカタから連れ去られた。

誰もいなくなった林の木には、ナイフで一通の封書が刺してある。それはヴァルを王宮へと招待する危険な封書であった。
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