ハルとオオカミ
そして何気なく五十嵐くんを見上げて、思わず呼吸が止まった。
こ、これは……。
水も滴るいいオトコというやつでは……。
五十嵐ファンの血が騒いだ。目の前のアイドル雑誌巻頭ページばりの素晴らしきシャッターシーンをガン見しようと、目を見開く。
普段は無造作な感じでセットされているふわふわで柔らかそうな髪が、雨に濡れて頬や額に張り付いている。
顎を伝う雫がぽたりと落ちる光景が、伏し目がちな表情をした端正な横顔と見事にマッチしてなんだかもう芸術的すぎて眩暈がした。
「あー、なんか寒くなってきたし……。最悪だな」
「最高……」
「は?」
惚けた顔をした私をいぶかし気に見た五十嵐くんは、さらに額に張り付いた髪をかき上げるという暴挙に出た。お、追い打ちだ! 私の心の臓が止まりそう!
「……止みそうにねえな」
「……う、うん……」
五十嵐くんは冷静なんだからと内なる興奮を抑えようと必死なのに、彼の発言にまたドキドキした。『止みそうにねえな』って。なんですかそのお約束なセリフ。少女漫画か。