王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「頼むからさ、当たり前みたいな顔して自分を差し出すのやめてよ。育った環境のせいだし仕方ないけど、クレアは自分を軽視しすぎる。
そんなこと、お母さんだってきっと望んでないよ」
「でも……母は私に、国のためにって……」
「そんなの建前だよ。本心はきっと違う。ただ、クレアに幸せになって欲しかっただけだよ」
シド王子の声に……幼い頃言われた母の言葉が重なる。
『ごめんね……クレア。こんな立場に生んでしまって……普通の女の子として生んであげられなくて、ごめんね……っ』
王族の責任を果たさないことは、逃げることだと思っていた。
私には王族の誇りもなにもないけれど、血だけはそこにあてはまるから……だから、母がとれなかった責任をとらなくちゃいけないって……。
私が王族の品格と覚悟を持ち、そこから逃げないことを母は望んでるってそう思ってきた。
……でも。
母が、同時にこの立場を憎んでいたのも知っていた。
あの時、謝りながら流した涙の意味を……。
瞳から涙を溢れさせた私を、シド王子が優しい瞳で見つめる。
「クレアのお母さんも、ガイルもジュリアも……気に入らないけど、マイケルも。そして俺も。クレアが自分を大事にしてくれることを望んでる」
頬を流れる涙を、シド王子の指が拭い、目尻にたまったものまですくわれる。
「だから、大事にしてよ。クレア自身のことを。自分についた傷もきちんと気にして欲しい。じゃなきゃ俺が許さない」
「あ……あの時、だから怒って……」
『あざにはなるだろうけど、痕は残らないと思うので安心してください。傷もひどくない』
そうお医者様に言われたとき『はい』としか反応しなかった私に、シド王子は『それだけ?』と聞いた。
あの時、シド王子がなんで不機嫌になったのかが今わかって……涙がまたひとつ溢れる。