王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「へぇ。言うね。正直、クレア姫さえ渡してくれればそれでよかったけど……やる気出てきた」

冷たい笑みを浮かべた瞳と、自信に溢れる声に、背中がサッと冷たくなる。

獲物を見定めているような表情が怖くて……ガイルが殺されてしまう気がして、気付いたら足を踏み出していた。

「やめて……っ!」

剣先を向け合う真ん中に立ち、ガイルを庇うように両手を広げると、男の人の顔に驚きが広がっていく。

背中から「クレアっ、どいてろ!」という怒鳴り声が聞こえたけれど無視して男の人を見つめた。

「私が、テネーブル王国第三王妃の娘、クレア・ソワールです。あなたの命に従いますから、この人は逃がしてください」

男の人は理解できなそうに眉を寄せ……そして静かに問い掛ける。

「アンタは姫で、こいつはただの騎士だろ? 盾にすることはあっても、その逆は初めて見た。姫のアンタが直々にこいつを守らなきゃいけない理由でもあるの?」

不思議そうに聞かれ、じっと見つめ返す。
理由……と言われても、思いつかないけど、でも。

「守らなきゃいけない理由はなくても、私が、ガイルを守ってはいけない理由もないはずです」
「……ただ、守りたいから?」

呆然としたような声に聞かれうなづく。

「大事なひとなんです。だから、失いたくない……」

また目を見開いた男の人が静かに剣を下ろしたのを見てから続ける。

「今の話をどこから聞いていたかわかりませんが、この人は、革命派と同じ意見を持っています。ならば、あなたと戦う理由はない。無差別に殺しているわけではないんでしょう?」

王族だけが目的だって話だったはずだ。

そう思い、訴えかけるように聞くと、男の人は「んー」と考えるような声を出した。

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