王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「たしかに、王族以外の人間の血はなるべくなら見たくない」
「だったら、私を……っ」
「でも、残念ながら逃がすわけにはいかないかな」
困り顔で微笑まれ、言葉を失くす。
この人とガイルの力の差は、さっきの戦いだけで一目瞭然だった。
王室付きの騎士であるガイルを一撃で手負いにしてしまうんだから、この男の人は相当強いんだろう。
そんな人を相手に、既に負傷しているガイルが勝てるとは思えなかった。
だから、私が大人しく捕まれば……と思ったのに、それも許してもらえないなんて……。
「そんな……」
ガイルを守る術をなくして、呆然としてしまっていると、そんな私を見て男の人が声をかける。
「いや、大丈夫だよ。なにも殺そうってつもりじゃないし、そんな肩落とす必要はないから」
「え……」と声をもらし顔を上げると、男の人は私を安心させるような笑みを浮かべて言う。
「同じ思考を持っている以上、悪いようにはしない。もともと王族だけが目的だったんだし、それ以外の人間を傷つけるのは本意じゃない。だけど、その騎士にも一緒についてきてもらう」
カシャ……と金属のこすれる音とともに、男の人が剣を鞘にしまう。
それからこちらに視線を向け、苦笑いを浮かべた。
「それに、その騎士にとってもその方がいいんじゃない? お姫様を守ろうって必死に俺の隙を狙って攻撃のタイミングを計ってるくらいだし」
振り向くと、敵意をむき出しに男の人を睨みつけるガイルの姿が映る。
私が話している間、ずっとこんな険しい顔をしていたんだろうか……と思い驚いていると、男の人は「忠実な犬だね」と呆れたように笑った。
「さっき城に火を放ったって報告があったから、もうじきここにも火が回る。煙に巻かれる前に出よう。……もちろん、逃げるなんてことは考えないでね」
そう細められた瞳が、底光りして見えた気がして……知らずのうちに、コクリと喉が鳴った。