王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「シオンさんは、私がどこの誰なのかを理解していないんだと思います。……いえ。シオンさんだけじゃなく、シド王子も。捕えられた身の私によくする理由がわからないですし、正直なところ、戸惑うことしかできません」

綺麗なドレスも、おいしい食事も、ふかふかのベッドも。嬉しいけれど、そこまでしてもらえる理由がわからなくて怖い。

シオンさんの話を聞いていると、この国が情だとか正義を大事にするっていうのはわかったけれど……それでも、今のこの扱いをすんなり受け入れることはできなかった。

「ただ、与えられるだけの今のままじゃ……自分の存在する意味がわからなくて、時間をどうすごせばいいのかがわからないんです。足元が見えなくて」

あの塔では、こんな風に感じたことはなかった。
あそこで暮らすのが私の義務だと思っていたし、母とガイル以外から優しさや情をかけられたことなんて一度もなかった。

それが今は……出逢って三日しか経たないシオンさんにこれでもかってほど甘やかされていて、それが落ち着かない。

目を伏せていると、ジュリアさんがしばらくしてから言う。

「そんなの、ただ図々しく受け入れとけばいいんじゃないですか?」

見ると、きょとんとした顔をするジュリアさんが私を見ていた。

「でも、理由もないのに……」
「理由だったら、さっきシオンさんが言ってた通りだと思いますよ。クレア様が気に入っているから、点数稼ぎたくていい顔してるだけですよ。好きにこき使って放っておけばいいんです」

あまりにあっさりとした事を言われ呆けていると、そんな私をジュリアさんが不思議そうな目で見つめた。


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