久遠の絆
時折木々の隙間から見える山は、しかし一向に近付いては来なかった。


「遠いわね」


マヤが愚痴を零す。


「だからマトさんが残れって言ったんじゃないか」


すかさずニアスが噛み付いた。


このふたり。馬が合わないのか、事あるごとにぶつかるのだ。


「兄さんに言われるならともかく、あんたに言われたくないよ」


「マトさんが大変だから、僕が代わりに言ってるんだろ」


「子供が何偉ぶってんのよ」


「子供って、ふたつしか違わないじゃないか」


「ふんっ」と互いにそっぽを向いてしまった。


ただこのふたりの掛け合いがあるから、一行の空気が重たくならずに済むという面もあるのだ。


何気にムードメーカーになっている、ニアスとマヤだった。


その後も歩き続け、ようやく山の麓と思われる辺りまでやって来た。


「今日はここで野営をしましょう。明日はいよいよ、村に入ります」


イーファンの言葉に、皆が一様に頷いた。


男女に分けてテントを張り、荷物を片付けると、夕食の準備に取り掛かった。


野営に慣れているシドが、率先して火を起こす。


いつものことながら、手際がいい。


簡単なスープやパンなどが、瞬く間に出来ていく。


「漆黒の総帥が自炊出来るなんて、思いもしなかったよ」


旅を始めた最初の頃、マヤがそう呟いたことがある。


「接してみないと、どういう人かなんて、本当に分からないよな」


マトもシドに対して突っ掛かるばかりではなくなっていた。


噂だけでは分からないことが沢山ある。


それにシドは、ヘラルドに操られていたというのだから、彼の意志に反して行った非道なこともたくさんあったに違いない。


だからと言って、彼の罪がなくなる訳ではないけれど、彼自身がそれを償おうと、瑠璃の巫女の守護者として懸命になっているのだ。


そこは認めるべき所だった。


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