ホテルの“4つのクリスマスストーリー”


『なぁ、覚えてる?高校の時も、お前くだらない男に振られて俺に電話してきたよな』


わたしが渋い顔をしていると、幼なじみのあいつは唐突に昔話を始め、ホント男見る目ねーなー、と自分に買ったブラックコーヒーを飲む。言い方には腹が立つけど、今はこの押し付けない優しさが身に染みてありがたい。


『でも、ごめん。お前がブサイクな顔して泣いてたあの時もそうだけど・・・今も、一緒に悲しんであげられない』

「は?」


2つ悪口を言われた気がして彼を睨むと、ばつの悪そうな顔で言った。


『・・・お前のこと好きだから』

「え?ちょっと・・・」

『卑怯かもしれないけど、20代最後だし・・・チャンスと思って言っとく・・・』


笑みの消えた真面目な顔でポツリポツリとそんなことを言うから、一瞬いつものわたしたちとは違う真面目な空気になってしまう。

すると時を移さず、その妙な緊張感を追い払うように彼は口角を上げて悪戯に微笑んだ。


『ま、お前の気持ちは今度またゆっくり聞かせてもらうわ』


じゃあな、と手をヒラヒラ振り立ち去ろうとするので、わたしは思わず「ねぇ!」と背中に向かって呼び止める。


「部屋、来る?」


一方的にドキドキさせられたのが悔しくて、仕返しとばかりの精一杯の冗談だった。


『はぁ?いかねーよ』


彼はそんなことを言いながら、耳まで真っ赤にして足早に去ってしまった。



なんなの、30歳を目前にして、この甘酸っぱい展開は・・・



失恋の風に乗って、ついに白馬に乗った王子様が駆けてきたのかもしれない。
正体はまさかの幼なじみだったけど、こんなのも悪くないと思い始めている自分がいた。

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