ホテルの“4つのクリスマスストーリー”

均整の取れたデザインとシャンデリアの豪華さがちょうどよい心地よさを生み出しているロビーに下りる。

赤いクッションが目印になりそうだったので、ダークブラウンのソファに腰掛けてあいつを待った。


『ーー・・・』



わたしの名前を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、あいつがいて妙な安心感に包まれる。

急いで来たのか、息が少し上がっているようだった。

いつもお前と言うくせに、こういう時だけ名前で呼ぶ。

そうしていつも、わたしの好きなミルクティー缶を頬に当てるのだ。

自分の体温に缶から伝わる液体の温かさがじんわりと侵入してきて、それに比例するかのごとく寂しさがここぞとばかりに溢れ出てくる。けれど不思議と、もう涙は出なかった。


先輩のことが、人のものだから欲しかったわけじゃない。

今夜曖昧な関係に終止符を打って、ついに肩書きが手に入って・・・未来に先輩の隣にいるのはわたしかもしれないなんて、少なからず期待していた。

それくらい、わたしの目に映る先輩は、わたしだけを見てくれていたから。


だけどわたしは相変わらず馬鹿だ。


一緒にいる時の甘さや優しさなんて全部、2人の時間をお互いにとって気持ちよくするための先輩の気遣いであって、むしろ責任感のない「好き」が、演出のしやすい環境を作り出していた。

そういう嘘の付ける人だってこと、最初はわかっていたはずなのに。

最後はそんな表面的な“オモテナシ”に浮かれてひとりで舞い上がっていたなんて、まったく後味の悪い顛末だ。


冷静になって思い返すと幸せだったはずの先輩との記憶は全て凶器のように変形してわたしに突き刺さり、なけなしのプライドがズタズタに傷付いていくようだった。
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