ふたりのアリス
「おはよっ、あずみ!」
寝ぼけた頭で大学の中を歩いていると、葵が声を掛けてきた。
「あはよー。葵」
「今日も朝はテンション低いねぇ~」
「仕方ないよ、低血圧だし。夜行性動物なんだよ」

あずみの言葉に葵が遠慮無く大口を開けて笑った。

「でも、すっごい顔してるよ。相変わらず、バイトがキツいの?」
「うーん、まぁ、そんなとこ・・・」
まさか『昔の悪夢を見たので気分が悪い』なんて云えないあずみは曖昧に返事をした。

「おはよぉ!」
突然、後ろから声が掛かったので二人が振り返ると果穂が立っていた。
「「おはよ」」
「葵ちゃん~!ノート写させて~」
果穂が目の前でパンっと両手を合わせた。
「またぁ?」

葵と果穂は大学に入ってから出来た同い年の友達だった。葵はサバサバしていて少し男っぽい、気さくな性格の持ち主だ。と本人にいうと怒るけど、あたしはそんな処が長所だと思っている。

あたしも長年マラソンをやってきたから、ショートカットで女の子らしいというより男っぽいから葵と合うのかも知れない。

栗色のセミロングの果穂は小柄で、小動物みたいな雰囲気の可愛さを持っている。あたしには歳の離れた妹がいる。そのせいか妹と雰囲気の似ている果穂の事が、どっか放っておけないのだ。

「果穂、あたしのを写さしてあげるよ」
「ホントに!ありがとー!」
ガバッと果穂があずみに抱きつくと、突然の事だったので頭がぼんやりしていたあずみは二、三歩後ろによろめいた。
「うわわっ、ごめん!あずみちゃん」
「あはは、へーき、へーき」
「ちょっと、気をつけなよぉ~」


あの頃に比べたら、こんなに楽しい時間を過ごせるなんて夢のようだ。
普通に大学に通って、友達とたわいもない話をする。
でも。
二人とも良い子なのに、自分自身でどこか透明な壁を作ってしまっている事を自覚していた。


何かが足りない。ポッカリと空いてしまった心が置いてけぼりにされている。
きっと、今日は朝から嫌な夢を見たからネガティブになっているのだろう。

あずみは頭を横に思いっきり振ると、今までの思考をふるい落とし歩き出した。

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