100回の好きの行方
 麻嘉が手渡したおにぎりと、飲み物ホルダーに入れた具なし味噌汁を食べながら篤人は幸せな気分になる。

 一人暮らしも長く、全く料理をしない篤人は、手料理に飢えている。

 だがそれだけが幸せな気持ちにするのではなく、自分のために作ってくれたのが一番の理由だ。

「あっこれ、きんぴらだ。」

「ちょっとピリ辛でしょ?」

 "んっ美味し。"ともぐもぐと食べていく姿を見て、嬉しそうに麻嘉は笑った。

「予定あったんじゃねーの。良かったのかよ。」

 ふいに聞かれ、麻嘉は思い出したように話した。

「予定?あ~、いいの。兄の用事に付き合うだけだったから。」

「お兄さん?」

「うん、三十路の。」

 心の中で、だから"大事な麻嘉の言うことなら聞いてやるよ。"とのセリフが出てくるのかと、篤人は安堵した。

 横目で見ると麻嘉は食べにくそうに、おにぎりを頬張っていたため、それが異様に気になった。

 いつもしてないネイルと、下ろされた髪の毛が原因に思え、信号で停まったときに、篤人は思わず垂れている横髪を耳にかけようと髪の毛に触れた。

「髪、食ってる。」

「ひゃっ!!!!」

 あまりにも突然のことで、変な声を出し顔を赤くしながら麻嘉は篤人をみた。

「悪りっ。髪、食ってたから。」

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