100回の好きの行方
「麻嘉さん、今すぐ私の所に帰ってきなさい。あなたが総務課にいたなんて……。そんなことなら早く退職させれば良かったわ!麻嘉さん、会社に置いてある荷物を片付けなさい。」

「貴乃さんっ!!」

 貴乃の発言に、麻嘉は慌てる様子を見せるが、それを受け入れる様子は皆無のようだ。それでも、何かを言おうとする麻嘉に、貴乃はタブレットを差し出した。

「新生フラワーシリーズのデザイン、これ、何年も前に麻嘉さんがデザインしたものよね?母親のために。そして、つい最近、"母親に書いたものだけど、これを個人的に贈りたい人がいる"と、私に言ってきたデザインよね?」

 麻嘉は否定も肯定もしないが、気まずい表情を浮かべ、菜月を見ているため、誰もが"肯定"と受け止めた。

 菜月だけがそれでも、自分のだと言い張るため、とうとう貴乃がぶち切れた。

「このデザインは、麻嘉さんが入社する前にデザインしたものよ。このデザインに目が止まり、今の会長が私の元で働くはずだった麻嘉さんを引き抜いたの。それにこれは、私の会社が、ジュエリー部門を立ち上げる時のデザインだった。会長も知ってることだわ。それを、霧加屋ギャラリーとの約束も破って…証拠もあるわよ!」

 菜月に見えるように、みんなの前に一枚の写真が置かれた。

 随分と若い麻嘉と貴乃、会長、それに麻嘉によく似た着物の女性が、デザイン画を持ってる写真で、そのデザイン画は、紛れもなく今、話題に上がっているデザインだった。
< 144 / 188 >

この作品をシェア

pagetop