100回の好きの行方
「でも、尚志に説教されて分かったんだ。勇気を出して麻嘉が気持ちを伝えてくれたこと……。誰かに取られたり、触れられたりするのが堪えられないこと……。」

 篤人は、麻嘉が立ち尽くしている入り口ではなく、窓から見える夜景を眺めているため、どんな顔をしているか麻嘉からは分からなかったが、微かに耳が赤い気もした。

「篤人、それって……。」

 ふいに、名前を呼ばれた篤人は、麻嘉の方を見るとギョッとして目を見開いてしまう。

 やっと涙が止まった麻嘉が、また涙を流しているのだ。

 篤人は、とっさにシャンパンを置いて、麻嘉に近づいた。

「麻嘉?」

「そんなこと言うと……ヒクッ、私、ヒクッ……。」

「……んっ、何?」

 気がつくと麻嘉の目の前に篤人はいて、すごく優しい顔をしながら見下ろされていた。

「ヒクッ…私のこと、ヒクッ……好きなように……聞こえるよ?」

 ヒクヒク泣き、篤人をみている麻嘉は急に視界が何かに遮られ、真っ暗になった。

 一瞬何が起きたか分からなかったが、すぐに篤人に抱き締められているのに気がついた。

「見合い相手……丁重に断っておけよ。」

「…………。」

「好きだよ……。幸せにしてやるから。」

 
< 160 / 188 >

この作品をシェア

pagetop