100回の好きの行方
「たった1回で付き合えるんだ…。何度言っても伝わらないのに、私の気持ちなんて。結局、私は土俵すら上がれなかった。……キスして、舞い上がって期待したじゃん。でも、もっと嫌なのは、それでも、篤斗のことを好きな自分自身。」

 初めは涙を我慢していた麻嘉だが、最後の方は涙を流しながら篤斗を睨み付けていた。

「……彼女、待ってるよ。」

 何も言えない篤斗に、麻嘉は彼女の元に行くよう急かし、無言のままフロアから出ていく。

 尚志も、あかねも佐伯も、麻嘉に何て言っていいのか分からず、ただ、この雰囲気の悪いフロアをどうしていいのか分からず黙っていた。

*******

「篤斗?美味しくない?ご要望のいなり寿司だよ。」

「あっ、美味しいよ。」

「もぅ~。来たらまずかったの?」
 
「嫌、ストーカー対策でそこまでする必要あった?」

「だって会社の人かも知れないでしょ?」
 
 菜月にそう言われ納得する。

 彼女に声をかけられたとき、彼女がストーカーに悩まされていることを知り、半年だけ彼氏のふりを頼まれた。

 自分が探してる人物かも知れないと勝手に、誤解した篤斗は、それを確かめたい一心でその申し出を受けてしまう。

 半年やり過ごせばいい、と思っていたが、代償が大きすぎる。

 尚志があんな感情むき出しになるなんて。

 でも、一番傷付けたのは、麻嘉だ。

 あの泣き顔が頭に焼き付いて離れない。
 
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