サンタクロースは君だった
 ツイッターのトレンドには、【冬木レオン】の文字。それに続くのは【ラストライブ】【芸能界引退】と、彼の注目度の高さがわかるラインナップになっていた。バックヤードで小さくため息をつく。ひかりの好きなシンガーソングライターのラストライブはあと一時間後の17時から。ラストライブといっても、生放送の音楽番組のたかだか10分くらい。ソロのライブではない。それが発表されたときに、何だか腑に落ちないなと思いながらもそう決めたのならば仕方がないと割り切れる自分もいた。こうなってくるとあまり熱心なファンじゃないと思われてしまうかもしれない。

「…歌詞、好きだったんだけどな。」

 冬木レオンはひかりの好きなシンガーソングライターだ。まだ21歳と若いのに、テレビなどのメディアに出ることを辞め、今後は音楽クリエイターとして活動することを9月、宣言した。その言葉通り、12月24日のこのライブをもって彼は人前で歌わなくなる。
 基本的にひかりはアイドルなどの流行り物は苦手である。しかし。シンガーソングライターなのにアイドルかのように扱われてきた彼を好きだと思うようになったのは、忘れられない男の子の面影を感じたからというのが最初だった。

 忘れられない男の子。あの子も今、きっと冬木レオンくらいの歳になっていることだろう。

「店長!お疲れ様です。先にあがります!」
「お疲れ様。今日はホワイトクリスマスかもってくらい寒いみたいだから気をつけてね。」
「はいっ!」

 笑顔でアルバイトの大学生を見送った。そんな美潮ひかりは、忘れられない男の子の面影を追いかけて、いつの間にかシンガーソングライターを追いかけていた29歳(処女)だ。もちろん今日を誰かと過ごす予定もない。

「10時まであと5時間半。…頑張りますか。」
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