吐息のかかる距離で愛をささやいて
ベットから降りて、リビングに行っても俊の姿は見えなかった。


思わずついたため息に気づいて、苦笑する。




「何のため息なのよ。」



洗面所に行く途中、キッチンのテーブルの上にラップがかけらえれたサンドイッチが置いてあるのが見えた。


傍に行くと、横に置いてある。



『食べていきなさい。』



綺麗な文字でそう書いてあった。



「何で命令口調。」


メモを手にとると思わず笑みがこぼれた。


俊が実際にこんな口調で私に何かを言ったことはない。だからこそ、この一文を見て笑ってしまった。


おそらく俊は自室で寝ているのだろう。


俊の職業は所謂デザイナーというやつらしい。



「何のデザイナー?」


「好きなものをデザインする。」


そういう職業に疎い私の質問に、俊は何とも曖昧な答えを返した。



その時の私は、俊の家にこんなに長い間住むことになるとは思っていなかったので、それ以上は深くは聞かなかった。

一度聞きそびれたものを、もう一度詳しく聞くと言うのはなかなかタイミングがわからず、結局私は俊の職業を『デザイナー』ということ以外何も知らない。ちなみに在宅だ。



「俊は食べたのかな?」





身支度を済ませた後、そんなことを思いながらサンドイッチを食べた。



どうせなら一緒に食べたかったなんていう気持ちが顔を出してけど、それは無理やりどこかへ押しやって仕事に出かけた。
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