吐息のかかる距離で愛をささやいて
どうしても近くの中華料理屋の小龍包が食べたいと言う瑞穂の意見が採用され、私たちは会社を出た。


店について個室に通された。


「ごめんね~どうしても小龍包が食べたくなって。」


「いいわよ。気にしなくて。もうつわり終わったのよね?」


「うん。逆に食欲が止まらなくて困ってる。これが食べたいって思ったら我慢できないのよね~」




そんな会話を黙って聞いていた。



バリバリのキャリアウーマンだと思っていた瑞穂の夢は、お母さんになることだっと聞いたときは、なぜか勝手に裏切られた気分になった。



実は、うちの会社の現社長の娘でもある瑞穂。有能な社長によく似ていて仕事もできる。恋人がいたこともないと言っていたから、彼女はなんとなく、私と同類なんじゃないかと思っていた。


でも、父親である社長の薦めたお見合いで、2年前に結婚。そして妊娠。産休は取らずにそのまま退職すると言う。



キャリアもあるのにもったいない。そう言った人に向かって彼女はこういった。


「小さいころ、うちの母のようなお母さんになるのが夢でした。彼と結婚してそのことを思い出したんです。」



と。



それを聞いたとき、今まで一番の友達だと思っていた瑞穂を遠くに感じた。




元婚約者のことが好きでも、プロポーズされても彼との子どもを欲しいと思わなかった私はどこか欠落しているのだろうか・・・・。




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