吐息のかかる距離で愛をささやいて
「そうなの?」


「えぇ。うちの課からむこうに出張に言った子が聞いたらしんだけど、奥さん束縛が激しくて田内君が辟易してるって」


「まぁ、いいきみよね。」


「そうね。」


辛辣な二人の物言いに私は苦笑した。


もともと、二人は私と健二の結婚には賛成してなかったらしく、婚約破棄した私に『良かった』と言ったほどだ。



「とにかく!あっちが何言ってきても相手にしちゃダメよ!!」



「塩でも持ち歩いてなさいよ。で、会ったら投げつけるの。」



「それはさすがにないでしょ?」


そんな会話に思わず笑ってしまった。



健二の話はそこで終わった。



「ちょっとお手洗い。」


食事が終わった後、瑞穂がそう言って席を立つ。


「夏帆。あなた瑞穂と何かあったの?」



瑞穂が見えなくなって涼子がそう尋ねてきた。


「別に何もないわ。」


私は後ろめたさから涼子の顔が見れなかった。


確かに、瑞穂が妊娠してからというもの、私の瑞穂への態度はどこかよそよそしいものになっているという自覚はある。


瑞穂の妊娠を祝福していないわけじゃない。ただちょっと気持ちの整理がつかないのだ。



自分でも大人げないとは思っている。


頑なに涼子から目をそらす私を見て涼子はため息をついた。



「それならいいけど。たぶん、瑞穂気にしてるわよ。」


「っ!」


そう言われて言葉に詰まった。



確かに、よそよそしくなった私を瑞穂が気づかないはずはない。


私は何だか急に自分が恥ずかしくなった。


「取り敢えず、それとなくフォローしておきなさいよ」


そんな涼子の言葉に曖昧に頷くのが精一杯だった。
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