吐息のかかる距離で愛をささやいて
「橘のあの言い方!!きっついよね~。やっぱりさぁ30超えて彼氏もいないと若くてかわいい子には八つ当たりしたくなるのかなぁ?」


その声に私は立ち上がろうとした動きを止める。


「あの人、いくつだっけ?34、5?もう仕事と結婚するのかって勢いじゃん?」


声の主は同じ課の日野さんと鈴木さんかな。確か二人は20代半ばだった気がする。


まぁ、陰で色々言われるのは慣れてるから、それはいい。


でも、場所は考えて欲しいものだ。



課と同じフロアの女子トイレ。

しかも、個室の扉が閉まっているならば、そこに悪口の本人がいるとは思わないのだろうか。


社会人ならそれくらいの考慮はするべきだと思う。



すっかり出るタイミングを失ってしまった私はそんなことを考えていた。



すると隣の個室の扉が開く音がする。


隣も誰かいたらしい。



3つしかない個室の2つが閉まってたんならなおさら考慮してほしい。


「あ、横山さん、お疲れ様です~」


少し安堵したような、鈴木さんの声がする。


私じゃなくて良かったね。まぁここにいるけど。


「ホント、橘さんてきついわよね。」


あぁ、そこの話に加わるのね。さっさと出て行って欲しいのに。


「でもね、あんなことがあったら、誰だって仕事人間にもなるわよ。」



「あんなことって?」



思わせぶりな横山さんの言い方に、鈴木さんが食いついたのがわかった。


「それはね」


続きを遮るように私は扉を開けた。
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