痛快! 病ンデレラの逆襲
ニタニタほくそ笑んでいる間に車は動き出していた。
「それで、どちらまで?」
運転席の社長を見る。
「お前に合わせて、今日はベタなお子様メニュー。夜の遊園地に行く」
「それが夜遊びですか?」
「だから、お前に合わせて、と言っただろ! 本当はもっと大人の遊びを……」
ブツブツ口の中で呟く社長は、今一面白くなさそうだが、私は遊園地と聞き、いきなりテンションが高くなる。
「社長! 私、一回だけ遊園地に行ったことがあります」
あの日は楽しかった。三時間だけだったが、お千代さんと二人、メリーゴーランドに乗ったり、観覧車に乗ったり……あれはどこの遊園地だったろう。
「社長! 早く行きましょう! ここから一番近い遊園地なら、モグタンのいるスイーツランドですよね」
モグタンはモグラをモチーフにしたスイーツランドのメインキャラクターだ。
何故モグラなのかは明らかにされていない。その謎は永遠の秘密だそうだ。
初モグタン。モグタンに会える!
両手をグーにし、顔の横で「ヨシッ」とガッツボーズを作る。
何を力んでいるのだ、と社長は不思議そうにしながらも、口元は弧を描いている。
「夕食はまだだな?」
「はい」と答えると、「途中で食べようか」と社長が聞く。
「いいえ、遊園地で食べたいです」
一刻もその場に行きたい。社長の気が変わらぬうちに。
「そんなに嬉しいのか」
「当たり前じゃないですか、何年ぶりの遊園地だと思っているんですか!」
そう言いながら、あれっ、お千代さんと行ったのは……?
何年ぶりか思い出せない。そんなに前だったかな。
「じゃあ、そうしよう」
首を捻り考えていると、社長の手がポンポンと頭を叩く。
「遊びに行くのに、眉間に皺を寄せてどうする」
本当、お父さんみたいだな。
ニッコリ笑って、「社長、前を向いて下さい、危ないです」と注意する。