この恋を、忘れるしかなかった。
◇◇◇


”先生のケータイ番号教えて?”
「…」
確かにそう書いてあったことを確認すると、わたしはスケッチブックをぱたんと閉じた。
迷ったのは、一瞬だった。
わたしはいつもの付箋にケータイ番号と”悪用厳禁(笑)”と書いて、少し緊張しながらスケッチブックに貼り付けた。
文化祭が終わって早1ヶ月ーーー季節は紅葉を過ぎ、11月も終わろうとしていた。
スケッチブックのやりとりは相変わらず継続中で、初めは3枚だけだった絵も、少しずつその数を増やしていった。
霧島くんは、何でわたしにケータイ番号なんか聞いてきたんだろう…。
藤井くんや甲斐くんと、また何か企んでたりするのかな。
それとも何か…直接言えないような事でもあるのだろうか。
ーーーなんて事を考えていたわたしだったけど、次にスケッチブックが帰ってきた時に、考え過ぎだったことを知る。
”来月修学旅行あるから先生に写真とか送ろうと思って。悪用なんてしないし。LINE追加しとくね!”
「…」
修学旅行…そうなんだ。
”じゃあ楽しみにしてるね”
そう書いた付箋を貼って帰り支度を始めたわたしの顔は、自分でもわかるくらいにこやかだった。
それは、正しい感情なのかわからないけど、本当に楽しみに思ったから。

「安藤先生、それ霧島のでしょ?」
「あ…林先生」
"霧島"というワードにどきりとしながら顔をあげると、霧島くんのクラスの担任の林先生が目の前に立って、スケッチブックを指差していた。
「よくご存知ですね」
「あぁ、たまたま霧島が持って来たのを見かけたから」
「美術の課題なんです。霧島くん遅れぎみで…。それよりもうすぐ修学旅行ですね。どちらへ行かれるんですか?」
わたしは適当にごまかしてから、話題を変えた。
「沖縄だよ。安藤先生にもお土産買ってきてあげるから、楽しみにしてて」
「はぁ…ありがとうございます」
「じゃ、また明日!」
林先生は豪快に笑うと、わたしの肩をポンポンと叩いてから帰っていった。
叩かれた肩から、ぞわぞわしたモノが身体を伝う。
その正体は、間違いなく嫌悪感というヤツだ。


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