この恋を、忘れるしかなかった。
林先生は50代前半くらいだろうか、小太りの男性で、体育の先生でもないのにほぼ毎日ジャージ姿。
加えてメイドカフェ好きの独身らしく、それが理由で生徒たちからも引かれている。
外見や趣味趣向で人を判断するのは良くないけど、みんなの気持ちもわからなくはない。
「沖縄か…」
この高校に転任して1年も経たないわたしは、修学旅行の行き先を今頃知ったのだった。
名古屋から沖縄だなんて、この学校ってお金持ちなのかしら。
新婚旅行が沖縄だったわたしは、途端に懐かしい気持ちでいっぱいになった。
空と海が本当にキレイで、それ以外に形容する言葉が見つからない程だった。
(ちゅ)(うみ)水族館にも行ったし……目を閉じれば今でも浮かぶ、キレイな景色の数々。
わたしも2年生の担任だったら行けたのになぁ…なんて少しガッカリしながらコートに袖を通し、学校を出た。
まぁ、林先生とご一緒したくはないけど(笑)。
わたしにだけじゃないけど、馴れ馴れしく肩を叩いてきたり…セクハラもいいとこだよ。
だからわたしは、必要最低限しか関わらないようにしていた。

12月上旬、霧島くんたち2年生は修学旅行へ、わたしは写真が送られて来るのを心待ちにしていた。
そして初日の夜、ホテルの部屋で騒いでいる写真が何枚か送られてきて、自宅のキッチンで晩ごはんの支度をしながら、1人笑った。
次の日以降は、キレイな景色や建物など観光した場所ごとに写真を送ってくれて、霧島くんが見たものを、同じものをわたしも見ているんだと思った瞬間、嬉しいようなくすぐったいような…それでいて胸があたたかくなる、不思議な感覚を覚えた。
LINEでのメールのやりとりも、その頃から始まった。
《お土産を買いこむ担任(笑)。誰に買ってんだか》
「ぶっ…!」
那覇空港で、両手いっぱいお土産をさげている林先生の写真が届いて、職員室で思わず吹きだした。
《わたしにも買ってきてくれるって言ってたよ〜。。。多分先生たちみんなの分だね》
《プラス、メイドカフェ?》
《そうかも(笑)》



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