この恋を、忘れるしかなかった。
霧島くんにそのことを謝ったら、「オレ取りに行ったから持ってるよ」って言われてホッとした数日後、また机の上に置かれているスケッチブックを見て、わたしは1人笑顔になった。

霧島くんはきっと、わたしとスケッチブックのやりとりをしている事を、周りに知られたくなくて自分で取りに行ったんだと思う。
もとい、絵を描いていること自体を知られたくないのだろう。
初めて褒められた……そう言ってたくらいだから。

”美術部に入らない?”
”入らないよ”
”霧島くん髪の色けっこう明るいけど、大丈夫?注意されるんじゃない?”
”オレの髪は地毛だから”
少しずつ仕上がっていく絵と、付箋の中での会話ーーーまるで交換日記でもしているような気分のわたしは、いつの間にかそれが楽しみになっていた。

放課後の生徒たちとのおしゃべりの時間。
その最中に罰ゲームの対象になってされた、好きだという嘘の告白。
スケッチブックでの、交換日記みたいなやりとり。


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